時には、真面目でない話もしましょう。
はじまりはサッカー
10年以上前のインドネシア駐在中、足を骨折したことがあるんです。家族と一時帰国中の日本で、一人だけ先にインドネシアに帰る前日、3月のとある日のことでした。
最後、しばし会えなくなる子供と遊んどくか、と公園でサッカーをしました。相手が3歳ですから優しいパス位の話ですが、運動不足しかもインドネシアに無い寒空の下で動いたのがアダになったんですね。
なんと足の指をグキッとやりまして、まずは近所の整形へ。
世界の医療水準は日本並み?
レントゲンを見た先生は一言「ああ、亀裂骨折ですね」。
「先生、明日飛行機乗ってインドネシアに戻らんとあかんのですけど」焦る自分。
「ああ、大変だねー。ところで、あなた勤め先XXXなの? インドネシアで今売れてるんだってねー。インドネシアの売ってるものの写真とかない? 興味あるなー」患者より自分の関心が先に立つ先生。無視して治療方針を聞くと、ギプスを巻いて帰れとの診察。
「・・・先生、インドネシアでもこんなプラスチックのギプスとかして、外せるんですか?これ電ノコで切るやつですよね。常夏でギプスとか、松葉杖とか、足ムレ対策とか・・・」
「大丈夫、医者と言うのはね、世界どこでもそれなりの知性ある優秀な人々がするもので、日本と同じなんですよ。インドネシアでも日本と同じ治療です」なんなんだ、この自信、世界の医療事情に精通している感・・・絶対違う。日本の様に気軽に医者に行けるわけでもないし…。「それじゃギプスしっかりしておくね。松葉杖は次日本帰ってきた時に返してくれたらいいですよ」
どんどんと湧き上がる不安をよそに、先生は手際よく真っ白なプラスチックギプスをひざ下から足先まで巻いていく。インドネシアでギプスと松葉杖? 町で物取りの格好のターゲットじゃないか…。
で、帰宅後インドネシアの社長にメールで報告。すぐに返信、一言「ご苦労さん」。文面の向こうで鼻で笑っている顔が思い浮かぶ。
「トイレに行きたい、今すぐ」
何はともあれ、ギプスで固定した翌日、インドネシアの帰路に。
関空では優先搭乗、こんなの赴任時のビジネス以来。ちょっとVIPな気分で搭乗、一路トランジットするシンガポールへ。
ここで問題発生。トイレである。松葉杖は搭乗時にCAに預けたし、席も通路側じゃなかったので、6時間のシンガポールまでの機中は我慢。
結構な尿意を感じながら、ようやくチャンギに到着。降機はこういう時、一番最後なんですね。他の乗客が降りてから、CA注視のもと出口へ。
そんなに見つめられたらトイレに行って、CAを扉の向こうで待たせながら用を足すなど、当時まだまだ度胸がなかった自分にはできませんでした。ようやく得たトイレの機会、尿意より羞恥心が勝って、扉を横目に逃してしまいました。
出口では、車いすがおじさんと共に待機。さすがシンガポールですね、手配が良い。これに乗れ、との指示に従って座ると、いきなりスタート。F1シンガポールGPは市街地コースで有名ですが、それに劣らず、人の多いチャンギ空港を、ほとんど小走りで爆走。でも、トイレに行きたい。今すぐ。
おじさんに「トイレに行きたい」と訴えるも「Later, Later」で一顧だにせず。自分の意思でトイレすら行けないもどかしさ。もう漏れそう…。
セキュリティゲートも車椅子ならあっけなくパス。あっという間にジャカルタ行の搭乗口へ。駆け寄ったCAが「こっちこっち」と手を差し伸べてくれるも、もう限界。開口一番「ト、トイレ…」
「君は席に戻りなさい」
1時間半後、ジャカルタに到着。
事前の連絡通り、空港に家庭車のドライバーが迎えに来てくれていました。真っ白なギプスでグルグル巻きの足と松葉杖姿を見たドライバーは「Tuan(旦那)……」とだけ言って絶句。「Saya main dengan anak, dan saya jatuh, jadi(子供と遊んでて、こけてね、ほんで)……」片言のインドネシア語の説明でも事情を察してくれました。
翌朝は出勤。アパートに社用車のドライバーが迎えに来てくれていました。真っ白なギプスでグルグル巻きの足と松葉杖姿を見たドライバーは「Ooooo…」とだけ言って絶句。「Saya main dengan (以下略)
会社に到着すると、噂を聞いたみんなが心配して席に来てくれました。真っ白なギプスでグルグル巻きの(以下略)
一時帰国から帰ってきたらギプスと松葉杖、そりゃそうですね。なので、今でも説明のフレーズは覚えています。
昼食は階下の食堂。松葉杖ついて階段をゆっくり降りていると、いつもクールなローカル役員とすれ違いました。「そりゃ大変だろう。君は席に戻りなさい。食堂に言って、今日から毎日席に持って行かせるから」
なんと優しい…。この出来事通じてインドネシアが一層好きになりましたね。他人が困った時、大変な時の対応って、人の本質が出ると思うのですが、インドネシアの仲間はみんな優しくしてくれました。
世界のあちこちに人の優しさが転がっている
で、そのあとギプスはどうなったか?
2週間後、たまたま急用で日本に一時帰国することになったんですね。その時に別の整形に駆け込みました。「先生、このギプス、新興国での生活に合わせたものになりませんか」と。
事情を聴いた先生は「大変でしたね。こんな大きいギプスも松葉杖もいりません。患部だけを固定する取り外し可能で、足も清潔に保てる簡易ギプスを作りましょう」
あぁ、優しいのはインドネシアの人だけじゃなかった…。
世界のあちこちに人のやさしさが転がっていることが実感できて、地球の上もさほど悪いとこじゃないよねって希望を持てる出来事でした。こういう出来事って、駐在人生のすごく良い隠し味になってて、個人的に好きです。とはいえ、海外駐在中に骨折なんてするもんじゃないですけどね。
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