海外駐在中の危機管理


はじめに

日本は災害大国です。災害と外国人、これは日本にいる外国人だけでなく、海外にいる日本の駐在員にとっても結構身近な問題。

駐在員は、海外では外国人であり、非力な立場。これ、駐在員のデメリットの一つですね。安全第一とはいえ、実感もあまりない国も多いですよね。駐在経験もあるインドネシアの実例を出しながら、海外に住むことを安全の観点から見てみました。

最初に、駐在員が海外で出会った危機管理ケースを紹介します。一つは98年にインドネシアで起きた暴動。もう一つは09年の豚(と鳥)インフルエンザの感染拡大をめぐる自分の体験です。

これらの例は、なかなか一般的ではないですが、危機の時に何が起こるのか、ということを考える想像力を養っておくことは、自分の身を守る気構えを作る上で大切。これらの実例を知って、海外に住むことのリスクに対するマインドを持っていただいた上で、最後にインドネシア・オランダ・マレーシアの三カ国駐在経験に基づいた駐在生活を楽しむための日常のリスク回避のポイントに触れます。


最近あった駐在員の安全にかかわる話

駐在員に係る危機管理① '985月 インドネシア暴動


概要:スハルト独裁政権の不満が高まっていた中、97年アジア通貨危機によってルピアが暴落、物価高騰が激しい不満が、政権への不満として噴出。特に経済的に恵まれていた華人が狙われた。結果、スハルト政権は崩壊、今の民主的なインドネシアの幕開けとなった。暴動の犠牲者は不明だが、1000人以上ともされ、ほとんどは華人と言われている。当時ジャカルタの駐在員及び家族はおおよそ1万人以上。



2006年に赴任したので、当時はまだまだ暴動のイメージが駐在員の頭にあった時代でした。直接の体験はありませんが、当時は、まだよろずインドネシアの掲示板アーカイブに暴動当時の生々しい情報交換の内容が残っていて、息をのんだものです。

当時の息遣いを感じさせる話がいくつかあるので、駐在員(やその家族)に何が起こるのか、紹介します。


当時日本人学校の生徒だった方の思い出


帰宅できず、学校に泊ってます。先生方がお米を買い出しに行かれたそうですが、華人が狙い撃ちにあっていただけに、結構危険な思いをされたと推測します。

当時よろずインドネシアの運営に携わっていた方の思い出

いろんな意味で、いっぱいいっぱい!

京都大学の研究者の方の記録

こちらは、政府の動きも刻一刻と分かります(リンク


ちなみに、インドネシア領事館にも簡単な記載があります。
インドネシアで安全に暮らすために

領事館はバクっと書いているので分かりにくいですが、先の西村さんの記事にあるように、暴動真っ只中にインドネシアに来たのは、民間のJALANAの臨時便です。チケットは自分でオフィスに行って購入。空港に、ホイソレと乗れなかったようです。

さて、どう感じますか?


駐在員に係る危機管理の例② '09年豚・鳥インフルエンザの体験

当時、駐在していたインドネシアでは鳥インフルエンザのヒトへの感染とパンデミックが心配されていました。でも、それより先にメキシコ発の豚インフルエンザが発生、日本にも感染が飛び火し、大騒ぎした時の報道を振り返った記事です。

過去のパンデミックレビュー第9回を掲載!

注目は、感染が疑われる人が10日間留置措置にあっていること。

この時、WHOは豚インフルでフェーズ4を宣言していました。日本は水際で食い止めようとし、感染を疑われると簡単に入国できませんでした。

これ、インドネシアで結構深刻に見ていました。なぜなら、パンデミックが本格的になってWHOがフェーズ5以上を宣言した時、場合によっては入国が拒否されるかもしれないと感じたからです。

感染地から母国に避難したくても、受け入れてくれないこともあり得る、と。そうなれば、自力で生きのびる方法を探さねばなりません

実はこの時期、インドネシアでは鳥インフルエンザの危険が高まっていました。駐在先では、感染の広がりに応じて出向員や家族を帰らせる計画が作られていただけに、この話は最悪、インドネシアでパンデミックが予想以上に広がったら、日本に逃げるタイミングを逸すると真剣に考えていました。

実際、帯同家族に帰国命令を出した企業もありました。その時の話を紹介した記事にはこう書いています。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/pandemic/topics/200904/510168.html


同じアパートにこの企業の知り合いがいましたが、日本人学校から帰ってきた子供たちがわけも分からないまま、友達とサヨナラを言う間もなく、学校に道具を置いたまま、母親と空港に向かって、着の身着のままで帰国していったのです。

海外に住む以上危機管理とはことほど左様に厳しい判断・行動を迫られることがあるのです。

決定的な自分の体験

オランダ駐在中、家族でインフルエンザを発症。オランダでは、医療費抑制のため、容易に薬はもらえません。やむに已まれず、鳥インフルのパンデミック用にタミフルを預かっていたので、それを服用。後で、産業医から大変叱られました。産業医に事前に相談せよ、と。

でも実際は時差8時間、オランダの昼間日本の誰かが相談できる体制などありませんでした。日本側は相談せよというわりに、建前だけ

単なるインフルだったので、まだいいですが、これが鳥インフルエンザのパンデミックなら、どうする?命がかかった環境で会社のルールを守るのか?

自分の中で、自分と家族の安全は、誰よりも自分が一番責任を持たないといけないんだ、と自覚した出来事だったし、危険はいつ訪れるかわからない、と改めて思った出来事でした。


これらの出来事から見えてくること


政府の対応や会社の対応がなっていないと指弾するつもりはありません。それぞれの立場でBestEffortしていることが殆どでしょうから。

言いたいのは、駐在員として海外に住む限りは、危機管理は自分で考えないといけない、ということ。現場の事は遠い本社では分からない、温度感も違う。結局渦中の自分が考えて判断しなければいけない事態が起こり得る、しかも駐在ならなおさら自分の判断が求められる環境にいるという心づもりが必要なのです。


インドネシア駐在時、駐在経験が豊かな先輩から言われたのは
  ・自分の身は自分で守れ。会社の指示を待つな
  ・そのためには、カネ、移動手段、情報を確保せよ

具体的には、空港まで行けるガソリンは常に確保し、1,000ドル(当時)程度の現金を持っておけ、と。危機はどんな形で起こるかわかりませんが、いつでも脱出できる準備はしておくに越したことはありません。


駐在中日常起こり得るリスク管理

大事なことは、「自分の身は自分で守る」


先の実例読んで、こんなデメリットある海外駐在無理だわ、となりますか?

大丈夫。大事なのは、自分の身は自分で守る、というマインドを常に持つこと。それだけです。毎日、死ぬかもしれないことが起こっているわけではないですから。

たった10年前、20年前に危機管理の事態が、日本人が多い駐在国で起こっていた、それを知るだけでも随分違うと思います。タイでも軍が町中に出ていた時期がありますよね。その気になれば、自分が住んでいる国でリアルに起こった危機管理の出来事、実体験の例があると思います。先輩からにそんな話を聞ければ、危機管理の肌感覚変わってくると思います。

もっと大切なのは、普段の日常に起こり得るリスク対策


そして、こういう特殊な事例ばっかりに注目するのではなく、もっと大切なのは、日常に起こり得るコトの未然防止を行うこと。例えば、交通事故や、泥棒等、そっちの方が余程遭遇する確率は高いからです。

具体的には、こちらの図を参考にしてください。海外駐在している自分は非力である、というデメリットを念頭に、自分の身は自分で守る。安全な生活があって初めて楽しめる海外駐在生活ですからね!


家選びはこちらの記事もご参考に。

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