海外駐在を目指す人に役立つキャリア理論


今回は、海外駐在を目指す人に役立つキャリア理論を紹介します。


はじめに


まず、話のベースになるキャリア理論「プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性)理論」の紹介と共に、103か国の駐在員をしてきた自分の歩みと重ねあわせて、理論が現実的で、今後海外駐在を目指す人の参考として使えることを確認します。

その上で、海外駐在員になれるか否かに係らずキャリア形成にプラスになることを説明します。


プランド・ハップンスタンス理論

「プランド・ハップンスタンス理論」は、アメリカのスタンフォード大学のクランボッツ教授によって提唱された理論です。日本語では「計画的偶発性理論」などと訳されています。

理論が説明している内容について、いくつものWebサイトで説明が出ていますが、以下の3点に集約できそうです。

①キャリアは偶然の出来事、予期せぬ出来事に左右され、その対応で形成されている

②偶然は、本人の主体性や努力によってキャリアに活かすことができる

③偶然を待つのではなく、積極的な行動などによってキャリア形成の機会を増やすことができる

この理論が他のキャリア理論と差異がある象徴的なポイントが2点挙げられます。
① キャリア形成には偶然の要素が避けられないことを最初から認めている
② 偶然をどう前向きなキャリア形成にしていくのか、という点に着目している



自分の例に当てはめてみた

駐在を目指してなかった過去の自分 

この理論を、自分の実例に当てはめてみました。
意外にも理論と結構重複する部分があり、理論が実態に即した有用なものであることを確認できます。

実は、駐在員のポジションは、決して昔から目指していたものではありませんでした。

大学入試は英語をできるだけ避けていたくらい英語は苦手科目。大学での専攻は日本史だったこともあり、英語は卒業に必要な最低限の単位取得に徹していました。

20年以上も前のことだし、英語に興味もなく、在学中にTOEICを取ることはありませんでしたし、話す機会もゼロ。海外旅行も就職後25歳過ぎてから経験したくらい、自分の人生にとって海外は縁遠いものだったのです。

それが今や、コトの成り行きで3か国9年も駐在しています。25歳の自分が今の自分のキャリアを知ったら、それはびっくりすると思います。


駐在員になれたのは小さな事柄の積み重ね


じゃあ、なぜこんなことになったのか?
いくつかの事柄が積み重なっています。自分が駐在員になったきっかけを振り返って、いくつか具体例を挙げてみましょう。





①98年にグローバル企業に入社し、先輩たちは軒並みどこかへ駐在しており、海外駐在というポジションが身近にあることを知った

②01年に転職後、連結決算担当になり海外とコミュニケーションをとるようになった

③たまたま連結決算システム導入プロジェクト担当となり、海外出張機会を得、外国人と面着で仕事した

④個人的に海外旅行に行くようになり、海外の楽しさを知った

こうやって、徐々に海外と交わることの楽しさを感じていったのです。ある一つのことがきっかけでは無く、いくつかの事柄の積み重ねが、海外への興味を作ってきたのです。

そのうちに、自分のキャリア希望を上司に申告する自己申告で海外事業体に行きたいと書くようになりました。


そして2006年、インドネシアに駐在している課長職の帰任時期が来ました。当時の海外駐在は課長職の役割。ところが、後任選びは難航。そろそろ課長になろうか、という係長クラスの先輩たちが軒並み断ったのです。

その結果「そういえばお前海外希望していたな」ということで、お鉢が回ってきたのです。

当時は係長にもなっておらず、むしろ部長にはあまり評価されていなかったため、後輩にも昇格の後塵を拝していたくらいで、イケてる若手でもありませんでした。ひょっとしたら厄介払いだったのかもしれません。

いずれにしても、タナボタで駐在のチャンスが回ってきたのです。


プランド・ハップンスタンス理論に当てはめてみる

さて、これを先ほどのプランド・ハップンスタンス理論に当てはめてみましょう。

①偶然に左右される:そのとおり。先輩が断っていなければ回ってきませんでしたね。
③行動で機会が増やせる:自己申告や業務で海外に関する仕事を引き受けていたことが、チャンスを引き寄せたといえるでしょう。

加えて言うなら、1回目の駐在で海外でしっかりやれる人材であるという評価を得られたからこそ、2回目、3回目の駐在に繋がり社内でも有数の駐在員キャリアを築くことができました。これはまさに②(偶然は、本人の主体性や努力によってキャリアに活かせる)ですね。

当時はあまり意識していませんでしたが、こうやって振り返ってみると、引き寄せる下地が徐々に作られていたんですね。小さな積み重ねの結果が、今のキャリアに繋がっていました。

ここでは単純化して述べていますが、自分の場合は家族帯同だったので、妻をはじめとした家族の理解、努力ももちろんあります。そういった要素も偶然を前向きに引き寄せる作用を果たしてくれたことは言うまでもありません。



偶然を海外駐在につなげる5要素


じゃあ、駐在を目指す皆さんの立場でどうすればいいのか?地道な努力をしていて偶然に委ねる、なんて他人任せに感じますよね。

プランド・ハップンスタンス理論では、偶然を引き寄せる次の五つの要素を挙げています。

①好奇心
②持続性
③楽観性
④柔軟性
⑤冒険心

漢字ばっかりですね。もっと優しく翻訳してみました。

①知らないことに興味を持つ
②あきらめない
③なんとかなるさ
④そういうこともあるよね
⑤とりあえずやってみよう

もっとまとめると、気楽な気持ちでチャレンジしてみようぜ、ってことではないでしょうか。この姿勢を持つことで、偶然をより自分の側に引き寄せ、キャリアに反映させるチャンスを手に入れやすくすることができるのです。

もちろん人生の歩み方は人それぞれです。海外駐在員を目指して計画立てて進めていく。そういうアプローチの方を否定するものではありません。

それでも、計画通りにすべてが行くとも限りません。独身の方なら結婚、DINKSの方なら子供の出産、あるいは突然の転勤、両親の介護、会社のリストラ・合併などなど、時には想定外の事が起こるかもしれません。いや、起こることの方が多いかもしれません。

自分を取り巻く環境は常に変わって行きますし、全部を自分の力でコントロールできません。それを力ずくで元の計画に合わせるよりは、偶然を受け入れるプランド・ハップンスタンス理論の方が現実的でひずみが少ない方法でしょう。

駐在員になれるとも限らない


でも、理論通りに心がけたとしても、駐在員になれるとも限りません。

なんじゃそれ?と思われるかもしれませんが、世の中そんなものです。

がっかりしないでも大丈夫。駐在員になることが人生の目的ではないのですから。

強調したいのは、自分や家族がHappyになるアプローチとして海外駐在が手段であるなら、しなやかに求めていけば良い、でも、駐在がそのアプローチで無くなったり、駐在が叶わない場合は元の計画に固執せず、自分や周囲の人に我慢や無理をもたらさず、柔軟に軌道修正や調整も必要ですよ、ということです。

なぜか?



駐在員は”手段”

ブログでも何度も触れていますが、人生の中で大切なのは駐在員になることでは無く、自分や家族がHappyになることだから。今までの自分の経験から、駐在員はその実現のための良い手段であるからお勧めしているのであって、駐在員はHappyになる必要条件ではありません。あくまでも手段。



大切なのは、Happyになろうと考え、動くこと
プランド・ハップンスタンス理論は、その点で分かりやすい指針といえます。
また、先に自分の例でも見てみましたが、この理論は現実的であり、有用だと言えます。


やはり駐在・キャリア形成に有用なプランド・ハップンスタンス理論




この理論に基づいて、駐在員が近づいたのならそれはそれでいいし、仮にそうならなくてもキャリア形成には有益なことです。そう、どう転んでも悪いようにはなりません

先に挙げた5つの要素、例えば柔軟な気持ちは駐在員に必要なマインドであることは、今までのブログ記事でも触れてきました。




なにより、仮に駐在員になりたいという希望が変わったとしても、柔軟性は変化の大きな時代を生き抜くのに大切な要素です。好奇心だって、どこでも必要ですし、これらがある人は自分が置かれた環境の中で、自ら何かしらの刺激を得て考えられる人です。

キャリア理論というと難しそうに聞こえますが、決して難しいことを言っているわけではありません。

行動のコツ、動くきっかけ位に捉え、これを参考に自分や家族の人生を考え、いろいろ試行錯誤することそのものが人生をHappyにするプロセスと思えば、決して無駄になりません。

そういう点で、プランド・ハップンスタンス理論は海外駐在を目指す人の頭を整理してくれる有用な考え方だと言えるでしょう。さて、みなさん、柔軟に好奇心をもって、取りあえずやってみませんか?

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