今回のコロナを駐在員の立場で経験したこと、気付きを後学のためにメモしておきます。駐在員の危機管理は以前の記事でも触れたことがあります。
今回、改めてコロナの出来事を書くのは、駐在員にとって危機管理は重要なポイントだからです。ただ、まだ現在進行形の話なのでホットな気付きの備忘という感じです。
今回の記事は、以下の流れで記載しています。
- コトの経緯
- ロックダウンに当たって実施したこと、その判断プロセス
- 巣ごもりを経験して得た危機管理上の気付き
経緯
居住場所:マレーシア、ペタリンジャヤ市
移動制限期間:3月18日~5月12日(3回延長、合計8週間)、緩和後6/9まで継続
ロックダウンのことですが、MCO(Movement
Control Order)と呼ばれました
移動制限内容(概要):
・ 外国人の入国禁止
・ 学校の閉鎖
・ ライフライン及びスーパーを除く政府機関、民間企業の閉鎖
・ 食料の購入やテイクアウト、医療以外の外出、集会やスポーツの禁止
・ 買い物は一家から1名のみで行くこと。
これらを徹底するために、違反者には逮捕・罰金という罰則が与えられ、各所に警察・軍による検問所を設置されました。
ポイント: ・ムヒディン・マレーシア首相は3月16日22時(日本時間23時)頃から,新型コロナウイルス対策について緊急の記者会見を行い,3月18日から3月31日までの「活動制限令」を発表したところ,とられる措置のポイントは以下のとおりです。 (全文(出典:首相官邸)) ...
取り締まりは厳格で、期間中の逮捕者は20千人を優にこえました。
期間中検問所を通りましたが、マシンガンを持った兵士が立っていて、そこそこ怖かったです。
4月下旬以降新規感染者数が抑えられたことに伴い、5/4からCMCO(Conditional MCO)となり、州内の移動や、人の密集を伴わないビジネスや運動の再開、4名までの乗車等が認められ、大幅な緩和が図られました。
ま、世界各国の移動制限(ロックアウト)の中でも、なかなか厳しい方だったと思います。昼は、グラブやフードパンダといったフードデリバリーサービスのバイクの音だけが響き、夜は町中が沈黙に包まれる毎日でした。
実施したこと
今回の危機管理、どのように対処したのか。振り返ってみました
MCOは3/16夜に発表があり、18日から実施されました。少し前から感染者が増え、欧州で始まっていたロックダウンが来るのでは、と噂が流れ、買いだめが始まっていたので、予感はあったものの、発表から実施まで、ほんとあっという間でした。
写真は、MCO発表直前3/16のスーパー。右側の野菜の棚が空になっていることにもご注目。
その中で、次のような優先順位をつけ、対処していきました。
①残るか帰国するかの判断
外国人という立場なので、まず「どこでこの危機を過ごすか」を決めないといけません。選択肢は二つ。
1) マレーシアに留まる
2) 日本に戻る
選択によって、対応が全く異なってくるため、この基本方針を真っ先に決めました。
我が家の選択は、「マレーシアに留まる」でした。
理由
1)
当時言われていた致死率が1%程度、エボラや鳥インフルエンザのような命の危険性は低い
2)
日本と同じレベルの栄養状態が確保でき、免疫力が維持できる可能性が高い
3)
一度出国したら、次いつ入国できるか不確実。仕事及び子供の学校への復帰が困難になる可能性がある
もちろん、各駐在者を取り巻く環境・条件によってこれは変わってくるでしょう。
例えば医療や栄養レベルに不安がある場合等帰国の選択もあるかもしれません。ただ、日本に戻る場合は、出口戦略(いつ、どうやって戻るか、戻ってきてローカルとの人間関係や現地会社・派遣会社との信頼関係は維持できるのか)も検討が必要でしょう。
②
準備すべきことをはっきりさせる
MCOが発表前の週末から外出控えのための買いだめが始まっており、ある程度の対応はしていたものの、妻と相談してMCO実施までの1日ですべき準備を以下の順番で相談して決めました。
1)
備えが必要なものの仕分け
生きていくのに必要な衣食住とライフライン(水道、電気、ガス、インターネット)のうち、災害ではないコロナは、ライフラインや衣住は支障なしと想定。
すべきことは「食」と食料確保のための「足(ガソリン)」と判断。
2)
備蓄しなくても良いものの明確化
水:浄水器があり、最悪水道水で生活できるため → ミネラルウォーター買いだめ不要
炭水化物:コメ、小麦粉、強力粉、乾麺がある → 買い足し不要
3)
結論
ガソリンを満タンにし、生鮮品・タンパク質の備蓄を2週間程度籠城できる程度準備。普段はしない野菜・果物を冷凍するなど、冷凍を最大限に活用
※2W程度の理由=すぐには終わらないけど、ひと月も外出全く禁止・食料供給無しもあり得なさそう、という程度
結局は、最初の2,3週間はスーパー店頭の品不足が目立ったものの、最低限必要な食品は継続して入手できました。
盲点だったのは、スーパーで購入できない消耗品(営業停止対象だった100均で買う掃除用具)が期間中補充できなかったことと、散髪に行けないことでした。
写真は3/28の近所のスーパー。入店まで1時間くらい並びました。これ以降、徐々に社会がMCOに慣れていって、これほどの行列には出会いませんでした。
③
準備ができたら、現地ルールを得る準備をし、巣ごもり
駐在員は、現地に貢献するために滞在が認められている立場。トラブルを起こして、一発帰還は避けたいところ。政府発表や新聞報道で情報を仕入れ、日本の感覚による判断ではなく、(いくらおかしいと感じても)現地のルールに従うように心がけました(この点は後の「危機管理の視点からの気づき」でも触れます)
ここまでが、生活準備編です。
超ざっくりまとめると、
①
優先順位をつけて行動・準備
②
おとなしくしくする
ってことですね。
危機管理の視点からの気づき
さて、マレーシアのMCOは実に56日間という長期にわたるものでした。その間、学校、会社はシャットダウン。家族とこれだけ長い間一緒に居続けたことは人生で初めての経験でした。この点については別の機会にまとめようと思っていますが、ひとまず、今回のテーマある駐在の危機管理対応、という観点での気付きをまとめました。
①
知恵を絞ってなんとか前向きに
特殊な環境下、「あれもない、これもない」と嘆いてばかりでは気持ちも参ってしまいますよね。特にいつ終わるか分からないロックダウンなら、なおさら。
なので、逆に「こうしてみよう」「これならできるか」という前向きなマインドに切り替えました。
例えば、運動。コンドミニアムに住んでいましたが、最初の1週間程度を過ぎると、共有エリアすら出られなくなり、完全に閉じ込められました。で、身動き取れない中、知恵を働かせて、退屈せず日常を何とか過ごすことに知恵を絞りました。
身近なものを使って・・・
・
食卓で卓球(ネットは紐)
・
廊下でテニスボールのキャッチボール
・
非常階段の昇降(ジョギングの代わり)
・
家の中での壁打ちバドミントン
・
お手玉をつかったキャッチボール
・
1.5Lペットボトルを使った素振り
ネットで検索すれば、もっともっと見つかります。これだけで、一週間くらいは持ちそうですよね。
必要なものを通販で手に入れる、という発想もありますが、いろいろ考えながら、家族とあーだ、こーだと会話するプロセスそのものが、リフレッシュになりますし、退屈しのぎにもなります。
② 不安や不満はマイノリティに向かう
MCO当初は健康維持のため外でジョギングをする人が絶えませんでした。その時にやり玉に挙がったのが、各国の駐在員が多く住む地区ののジョガーでした。
Twitterにジョガーを告発する盗撮が投稿され、ネチズンが騒ぐ事態に
警察も動き、見せしめとして日本人他外国人含む11名が逮捕され、大々的に報道されました。
厳しいルールが妥当かどうか、という評価は別として、この出来事で考えておきたいのは、次の二点。
・
不満はマイノリティに向かう
・
駐在員はマイノリティである
異常時に人々の不満がマイノリティに向かうことは、1923年関東大震災の朝鮮人虐殺、1998年アジア通貨危機下のインドネシアで中華系が多数殺害されたことなど、歴史を振り返れば起こりうること。
駐在員はその不満が向かう可能性を秘めた立場だという自覚が不可欠です。今回小さな形ですが、実際に不満のはけ口が駐在員に向かっていたのです。
危機時、「自分の身は自分で守る」が大原則。この意味で、いくらおかしいと持っても、現地のルールを知り、そこから外れて悪い方向で目立たないという考え方が大切だと、再認識しました。
③ 情報リテラシーの重要さ
危機管理の基本として、確かな情報を多く持つことは大切。
いくつかのソースを頼りました。
地元新聞社Twitter:
首相アナウンスの時期の把握、政府発表のリアルタイムの入手をはじめ、
移動制限を守らない市民の逮捕がどんどん大規模になることなど社会の動向がよくつかめ、
大変有用でした。
ローカル知人とのWhatsAppグループ:
感染者が近所で出たことなどきめ細かい地元密着情報がある、という点でしたが、
事実でない情報もあり、新聞社より精度は下がるという印象です。
カーナビアプリのWaze:
警察の検問位置が投稿されるので、検問に当たらない買い物ルートを考えるのに役立ちました。
また、継続的に確認すれば、どこが検問ポイントかもほぼ想定がつきます。
ということで、信頼できる情報を取捨選択するリテラシーは必要ですが、インターネットを介した情報の入手は、動きが取れない環境下では事態の把握、行動の指針をたてるのに大変有効でした。
④ コミュニティの大切さ
今回は、突然仲間と会えなくなったこともあり、家族はもちろん、Web会議システムを通じて再会したマレーシア同僚、社内や他国の駐在仲間、マレーシア国内の他社駐在仲間等、タテヨコでつながっていることのありがたさをしみじみと感じました。
先輩から「お互い頑張ろうな」と言われた言葉は本当に心にしみました。人と人とのつながり、というのは心の平穏にすごく貢献するものです。
そう頻繁に今回のような事柄が発生するわけではないですが、極端な事象の時ほど、本質的なことが見えがちですよね。
その意味では、先ほど挙げた4点は、駐在生活での危機管理での大切なポイントと言えそうです。普段から心の準備をしておきたいですね。
まとめ
長くなってしまいましたね。お付き合いいただきありがとうございます。
駐在員の立場で海外で経験することになったコロナ対応、危機管理の観点の振り返りをざくっとまとめると…
危機に突入するにあたっての行動判断のポイント
① 限られた時間内での最適アウトプットのため、取捨選択した優先順位をつける
②
おとなしくする
普段から構えておきたい心掛け
①
前向きな発想の癖付け
②
社会的少数派であることの自覚
③
情報リテラシーを高める
④
コミュニティーを大切にする
こんなところです。コロナのような事態がしょっちゅう起こるわけではありませんが、危機管理意識は駐在員にとって不可欠です。自分や大切な家族の安心がかかっているのですから。この記事が、将来の駐在員の安心安全な生活の参考になれば幸いです。
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