ポストコロナは駐在員冬の時代?

201月から始まったコロナ(COVID19)のパンデミックの影響で、世界中の駐在員が現地国で身動きが取れなくなりました。一方でリモートワークが導入され、駐在員がいなくても仕事ができるんじゃないかという意見もあり、駐在員にとっては居心地の悪い、不安な環境ができています。

今回は、ポストコロナの時代に駐在員ってホンマに必要なのか、少し考えてみました。

駐在員冬の時代到来?

コロナが世界的に拡大し、人の移動が止まりましたね。感染拡大防止のため、各国では国境が封鎖され、国際的な移動はほぼ完全に停止しました。例えば、関西国際空港の204月の国際線を使った外国人旅客数は6,683人。一日あたりわずか200人余りと言う状況でした。


人の移動の停止は、国内⇔海外にとどまらず、国内移動でも同様でした。各国で感染拡大防止のため、続々と移動制限が出され「ロックダウン」という言葉が一気に広まりました。一時は世界人口の半分を越える39億人以上がロックダウンの対象になったと言われています。

世界的に移動制限が実施行される中、ウェブ会議を始めとしたリモート業務(テレワーク)の導入が一気に進みました。

インターネットがあれば、会社のサーバーにアクセスでき、国境を問わずオンラインで会議も可能。場所を問わず仕事が一定程度進められることが実体験として認知されたことは、駐在員を含むオフィスワーカーにとって大きな変化点でした。

そして、この経験から「移動を伴わなくても、リモートで仕事ができる」という認識が生まれています。

場所の概念を越えた仕事のあり方を目の当たりにすれば、駐在員に向けて「駐在員は現地にいることが必要なのか?」という根本的な問いが生まるのは必然です。各種ベネフィットがある駐在員は高コストなことも、企業側のこういった問いのモチベーションにもなっています。

既に、駐在員の引き上げがなされ、場合によっては帰国した先からリモートで業務を行っている例もあるようで、コストがかかる駐在員は減員圧力にさらされる、「駐在員冬の時代」が到来するかもしれません。

駐在員冬の時代。この流れは日本企業だけに限ったことではありません。ブルームバーグでも同じ趣旨の記事が掲載されています。


実際、在マレーシアのドイツ企業に勤める知り合いは、在宅勤務の導入と共に、オフィスの縮小や駐在員の減員が実施されました。駐在員への逆風は世界的な動きなのです。

駐在員は遺物になる?

ではポストコロナの時代、駐在員という働き方は、リモートワークが無かった時代の遺物となり下がってしまうのでしょうか?

答えは5年後10年後にしか分かりませんが、思考実験として考えてみたいと思います。

こういう根本的な問いかけに対しては、根本的な部分を見つめてみることが有効です。つまり「駐在員の仕事の価値」っていったい何なんだろう、を考えることです。
自分は「異文化の接着剤」だと考えています。現地事業体で本社に向けて現地事業体の思いを伝える人、そして本社の常識を現地に翻訳(言葉の変換という狭義の意味ではなく)してローカルが腹落ちするようにする人ってことですね。

単に「伝える」だけだったら、リモートでも出来そうですよね。でも実際はそうじゃないと思うんです。現実世界は、液晶の画面の中だけでは伝えきれない「現場の空気感」にあふれているから。

もう少し具体的に見てみましょう。例えば「Stay Home」。

コロナの時マレーシアでは「Stay Home」を掛け声に、移動制限(ロックダウン)が実施されました。家から出ることも禁じられ、コンドの敷地内ですら歩けませんでした。買い物は各家庭一人、道にはマシンガンを持った兵士が展開して不要な外出をチェック。街中は人気が無くなり、フードデリバリーのバイクの音しかしませんでした。

日本の「ステイホーム」(外出自粛)と比べるとどうでしょうか?外出が80%減ったと報道されていましたが、マレーシアとは雰囲気が違いませんか?  

同じ「Stay Home/ステイホーム」という言葉一つでも想起するイメージは、置かれた環境で違うことが想像つきますよね。なので、例えば「会社を再開する」といった行為一つでも難しさ程度の起点が変わってきます。

駐在員の役割の肝ってここにあると思うんですね。日本と現地の双方を知っているからこそ、日本と現地のギャップに敏感に気付けるし、埋め合わせ方もわかるので、双方の円滑なコミュニケーションを担える

国によって現場で起きていることが違う限り、違いを上手くつなげる役割が必要で、駐在員の仕事はコロナが終わっても過去の遺物にならないと考えています。勿論、日本の言い分を伝えるだけの駐在員は、不要になってくるでしょう。それこそ付加価値もないので、リモートで済む話ですから。

もう一つ、コロナ下での駐在員を巡る話で大切なことは、厳しい移動制限の中でも仕事がある程度回ったのは、「既に駐在員がいたから」だと考えています。

リモートになっても、既につちかった信頼関係があるからこそ、オンラインの液晶にはとらえきれないたくさんの情報を補完でき、仕事が続けられたのです。リアルな駐在で築いた人間関係という無形の財産があったからこそ、海外事業会社のリモートが成立していたことは忘れてはいけません。

駐在員の代わりに、全くの新人がリモートで現地と仕事しようとしても、同じパフォーマンスはでません。リアルな人間関係に支えられる駐在員は、仕事の内容に自信を持ったらいいと思います。

これらを総合的に考えると、リモートでは置換できないリアルな現場感覚を必要とする駐在員ならではの役割がある、と言えるのではないでしょうか。文化や考え方の違いがある多様な社会である以上、そこをつなぐ役割としての駐在員のニーズは無くせないと思います。


本社が駐在員を減らそうとしてきたら


とはいえ、会社側にはコストや安全リスク含め駐在員を減らすモチベーションが出てきています。

そんな時、対応が必要な場合もありそうです。自分のポストが今のローカルの仲間達や自分、それから未来の世代、いろいろ考えた結果の解答が「必要」なら、会社側に意見・提案しなければいけません。ここでは、その時のアイデアを記します。

こういった思考実験は、自分の仕事の振り返りにもなりますし、会社目線で物事を考える訓練にもなりますので、してみて損はありませんよ。 

駐在員ポストの必要性を主張する理屈集

 【経営目線】

・管理や経営は日本人が把握しておくべき(含む牽制機能)という観点

「現地会社の肝(お金)を押さえておくには、日本人が見ておく必要があります」
「うちの子会社ですし、マネジメントは日本人が押さえておかないと」

【業務目線】

・メーカーなど技術移転絡みは使えますね

「日本式製造生産技術、サービス移転に人材不可欠」
「わが社が目指すは日本品質(日本の生産・サービスの確立)、つきっきりで見ておかないと移転がうまく進まないんです」
「かわいい弟子たちをほっとけません」

【顧客目線】

・いっそのことお客さんに委ねてみる

「お客様からの期待値は、日本水準のサービス」
「現地顧客が日系企業さん中心で、どうしても阿吽の呼吸が必要なんですよ」

【長期目線】
・中長期的観点で現ポストの必要性を判断し、必要に応じて維持する知恵が必要かもしれませんね。


「長期目線での異文化対応人材の育成(=未来の日本側組織活性化人材)が必要です」
「海外事業を継続するためには、現地とパイプを持った人間が必要」
「ディープな人間関係を築くには現地でフェイシングしながら長期的に関係構築が不可欠」
 「まだ、海外経験者が少ないわが社には、今後の海外展開に向けて必要なポスト」
「日本に帰った時にも、職場に良い刺激を与えられます。駐在経験のXXさんとか、〇〇さんとか、ええ働きしてますやん」
 「現地化定着まで少し時間くれ(でウヤムヤ化)」

などなど。

他にも各駐在員の業務や環境に合わせた言い方はいくらでもあるでしょう。駐在の最前線にいる皆さんの発言には日ごろのアウトプット、現場感覚の裏付けがあるので強い説得力を持ちます。

逆に言えば、今までは出張者の接待ゴルフしかしてないなー、としか思い当たらないなら、そもそもポスト維持の意味がありませんので、危機感持ちましょう。

これらに加えて、日々の有力な役員や重要なローカル顧客へのネットワーキング(役員向けは社内営業とも言いますが…)も有効でしょう。「駐在員は必要だ」という応援団を作ることも大切です。


おわりに

ということで、ポストコロナ時代の駐在員には、当面逆風が続くと思います。

でも、本社の言うことが全てではありません。現地のことを日本の会社に所属する人間の中で一番知っているのは最前線にいる駐在員。誰かが果たさねばならない役割があるなら、堂々と自信をもってこのポストは必要だと言っていきましょう。それが仕事に対する誠実な姿勢です。

そして、今目の前の仕事を誠実にこなしましょう。現実的に国境を越えた移動が難しい現在、ローカルからも派遣元からも「やっぱり駐在員はいるよね」と納得してもらうことが、将来の駐在員のための何よりの置き土産です。


駐在員の皆さん、こういう時期だからこそ、心強くやっていきましょう!

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